病気にならないための雑学。

健康な生活習慣づくりを進めるための雑学を簡単に紹介します。主な分野は認知症、高次脳機能障害、メンタルヘルス、運動、食事など。作業療法士。

脳に大ケガをしたらどうなる?

人間にとって最も大事な臓器の一つ「脳」。この脳に大ケガをしたらどうなるのでしょう。

まずは歴史的に有名な、ある事例を見てみましょう。

フィニアス・ゲージは米国の鉄道建築技術者の職長でした。ある日の発破作業で、爆薬を仕掛けるために、岩に深く穴を掘り、火薬・ヒューズ・砂を入れて鉄の付き棒で着き固める作業を行っていました。その作業中に火薬が爆発して、写真で彼が持っている鉄の突き棒が頭部を貫きました。鉄の棒は顔の横から入り、左目の後ろを通り抜け頭部から抜け出しました。

その後のゲージの様子です。

・事故後、数分もたたないうちに口をきき、ほとんど人の手を借りずに歩いた。
・友人や看護者からは、数時間のうちに亡くなるであろうと考えていた。
・その後の治療を経て、すっかり良くなり、鉄道の仕事には戻れなかったものの、仕事もしながら生活することができていた。

というように、治療を経て回復しました。

ここで疑問は、脳が破壊されるような大ケガを負いながらも生きていられたのはなぜかということです。

その答えは、脳には場所により機能の分担があり、ゲージの場合、生命維持に関係のない場所のケガだったため、死を免れたのです。

脳を大きく分類すると、図の薄いピンクで表された部分が大脳、濃いピンクの部分が小脳、黄色の部分が脳幹と言われます。

・大脳は考える、見る、聞く、話す、体を動かすなどの機能を分担します。
・小脳は体の動きの調節などを行います。
・脳幹は生命維持に必要な機能を分担し、具体的には体温調節、内臓の調節、呼吸、覚醒などのコントロールなどを行っています。

もう一度ゲージの場合を考えてみます。ゲージがケガしたのは脳の前側の部分で「前頭葉」呼ばれる場所です。ここは感情のコントロール、物事を計画する、人間関係を良好に保つ機能があります。

生命維持の機能があるのは「脳幹」ですので、死を免れたわけです。

しかし、重大な問題はありました。

事故前には勤勉で責任感があり、部下たちからの信頼も厚い、優秀な人物だったと評されていたのですが、事故後は気まぐれで礼儀知らず、同僚にも敬意を払わず頑固で子供っぽくなったというのです。

性格が変わってしまったのです。

先ほど前頭葉を「感情のコントロール、物事を計画する、人間関係を良好に保つ場所」と説明しました。ここが壊れてしまったため、このようなことが起こってしまったのです。

実はこのような例は、現代でもよく見られます。むしろ、医療技術が発展した現在は昔よりも脳をケガして一命をとりとめられる方が増えています。原因を挙げてみました。

・脳の血管が詰まる脳こうそく、脳の血管が破れる脳出血くも膜下出血は日本人の3大死因の一つです。
・交通事故や転落によって脳にダメージを負うこともよくあります。
・窒息や一酸化炭素中毒などによる低酸素脳症、インフルエンザなどによる脳炎なども珍しいものではありません。

このように脳にダメージを負い、生活がうまくいかなくなる状態を「高次脳機能障害」といいます。

ゲージの話に戻ります。

事故後、一命をとりとめたものの、優秀な人格・性格を失ってしまった彼ですが、後日談によると、考えられていた以上にずっと機能的に働き、社会にもずっとうまく適応していたということです。

脳にケガをしても、回復するものと理解しておいていただきたいと思います。

 

 

 

写真の引用・・・wikipedia

 

イラスト・・・Illust AC